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離婚の際依頼した弁護士さんは,こちらの言い分等をほとんど聞かず話を進めようとしたが,結局1つの質問を解決(相手側との調整など)2週間以上かかった上精査されることなく進められてしまった。

木野先生お人柄も優しくていねいに事柄を進めていただきとても感謝しております。信託人も安心して事に対処できるよう配慮して頂き今後の生活を安定して送れるように思っております。

なによりも老人が新しい人生を!と思えるアドバイスがとてもうれしかったです。

本当にありがとうございました。

改めてお礼にまいります。

遺産たる建物の相続開始後の使用関係

最高裁平成8年12月17日判決(最高裁判所民事判例集50巻10号2778頁)

遺産である建物の相続開始後の使用について被相続人と相続人との間に使用貸借契約の成立が推認される場合

       主   文

 原判決中、上告人ら敗訴の部分を破棄する。
 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人小室貴司の上告理由第一点について
 一 本件上告に係る被上告人らの請求は、上告人ら及び被上告人らは第一審判決添付物件目録記載の不動産の共有者であるが、上告人らは本件不動産の全部を占有、使用しており、このことによって被上告人らにその持分に応じた賃料相当額の損害を発生させているとして、上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、被上告人ら各自の持分に応じた本件不動産の賃料相当額の支払を求めるものである。
 二 原審の確定した事実関係の概要は、(一) aは昭和六三年九月二四日に死亡した、(二) 被上告人bはaの遺言により一六分の二の割合による遺産の包括遺贈を受けた者であり、上告人ら及びその余の被上告人らはaの相続人である、(三) 本件不動産はaの遺産であり、一筆の土地と同土地上の一棟の建物から成る、(四) 上告人らは、aの生前から、本件不動産においてaと共にその家族として同居生活をしてきたもので、相続開始後も本件不動産の全部を占有、使用している、というのである。
 三 原審は、右事実関係の下において、自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用していない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負うと判断して、被上告人らの不当利得返還請求を認容すべきものとした。
 四 しかしながら、原審の右判断は直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。
  本件についてこれを見るのに、上告人らは、aの相続人であり、本件不動産においてaの家族として同人と同居生活をしてきたというのであるから、特段の事情のない限り、aと上告人らの間には本件建物について右の趣旨の使用貸借契約が成立していたものと推認するのが相当であり、上告人らの本件建物の占有、使用が右使用貸借契約に基づくものであるならば、これにより上告人らが得る利益に法律上の原因がないということはできないから、被上告人らの不当利得返還請求は理由がないものというべきである。そうすると、これらの点について審理を尽くさず、上告人らに直ちに不当利得が成立するとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分については、使用貸借契約の成否等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
  よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官  千種秀夫
            裁判官  園部逸夫
            裁判官  可部恒雄
            裁判官  大野正男
            裁判官  尾崎行信

遺産分割後の負担不履行を理由とする解除

最高裁平成元年2月9日判決(最高裁判所民事判例集43巻2号1頁)

遺産分割協議と民法五四一条による解除の可否

       主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人吉村洋、同今中利昭、同村林隆一、同松本司、同千田適、同釜田佳孝、同浦田和栄、同谷口達吉の上告理由について
 共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法五四一条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法九〇九条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

 上告代理人吉村洋、同今中利昭、同村林隆一、同松本司、同千田適、同釜田佳孝、同浦田和栄、同谷口遠吉の上告理由
 原判決には、民法五四一条、九〇九条の解釈適用を誤った違法がある。
 一 原判決は、共同相続人の一人が遺産分割協議において負担させられた債務を履行しなかったときでも、他の相続人は遺産分割協議を民法五四一条により解除できないとする。
  1 その理由の第一として原判決は、「これを許すとすれば、民法九〇九条本文により遡及効のある分割について再分割がくり返され、法的安定性が著しく損なわれる虞れがあるから、長期間不確定な状態におかれることとなる。」と説く。
 しかし、遺産分割に遡及効があると何故その法的安定性が重視されることになるのか明らかでない。
  2 まず、解除を認めるとして第三者との関係で法的安定性が害されるか検討すると、たとえ解除を認め遡及的に遺産分割協議が遡及的に無効になったとしても、解除前の第三者は民法五四五条一項但書により、また解除後の第三者の場合でも動産については即時取得(民法一九二条)の規定等によって不動産についても登記を備えるかぎり一七七条により保護される余地がある(最判昭和三五年一一月二九日民集一四巻一三号二八六九頁等)のであるから、いずれも法的安定性を害するとはいえない。
  3 次に共同相続人間での解除の可否について検討するにたしかに分割協議に解除を認め、その失効と再分割協議を認めることは、実際上複雑になることは否めない。
 しかし、そのことのみを理由として、分割協議につき一切の債務不履行による解除を否定することは、明文の規定でもないかぎりできないはずである。
 民法九〇九条は、遺産分割に強度の法的安定性を要求し、分割協議の解除を一切否定している趣旨とは解せないのである。
  4 他方、原判決は、分割協議に参加した相続人に錯誤詐欺の場合に無効、取消の問題が生ずることを認める。
 とすれば、遺産分割の法的安定性といっても絶対のものではないということであろう。
 では右の場合には何故分割協議の法的安定性を害してよいのか、解除については何故右同様のことが認められないのか全く説明されていない。
 たしかに錯誤、詐欺の場合は、共同相続人間に分割協議時、自由な意思決定が欠如しているのに対し、解除においては、この欠如がないといえる。
 しかし、分割協議において、共同相続人の一人が負担した債務を履行しなかったという背信行為のある場合でも、常に法的安定性の要請を重視して分割協議の解除を一切否定すると解するのは妥当とはいえない。
 そもそも法律がある法律行為を無効、取消、あるいは解除しうるものとするのは、既に生じた効果を否定して以前の状態に復することに、国が協力することが、法秩序の趣旨から望ましい場合である。そして、そのような場合とは結局一方が何等かの不当な損失を蒙り、相手方が不当な利得を得た場合である。
 とすれば、遺産分割の解除の余地を認め、その可否の検討においても、解除の法的安定性の要請の他、遺産分割内容(一方が他の相続人に比し、どの程度多く遺産を相続することにしたか。)一人の相続人が他の相続人に如何なる内容の債務を負担したか。(解除以外の方法で、その履行が確保できるか否か。これは後にまた述べる。)負担した債務の不履行背信性の程度その時期等の諸事情を考慮して解除の可否を決すべきである。
 また、原判決は解除が認められるとすると分割協議が長期間不安定状態となると説くが、この点も解除の時期を諸般の事情を考慮し、信義則で制限すればよいのであるから、解除自体を一切否定する理由とはならない。
  5 また、理論的に考えてみても民法九〇九条本文は、遺産分割に遡及効を認め、各相続人は他の相続人を経由して権利の移転を受ける(移転的効力)のではなく、被相続人から、相続開始時に遡って、分割協議で認められた権利を直接に承継する旨規定する。
 この規定のみからすれば、なるほど一般に当事者間の合意を前提とする解除は遺産分割になじまないともいえる。
 しかし、権利の承継が理論的には被相続人から直接承継するとしても、その過程においては共同相続人の分割協議が介在し合意の要素が多分に含まれるのである。
 また、共同相続人のうち一人に全ての相続財産を相続させるという法定相続分と異なる分割協議は、実際上贈与とも評されるものである。
 民法も以上の遺産分割の実質を考慮し、移転的構成を前提とした規定(九〇九条但書、九一一条)を設けているのである。
 したがって、遺産分割に解除はなじまないとは必ずしもいえない。
 二1 原判決は第二の理由として、「遺産分割の協議の際に、分割の方法として共同相続人の一人又は数人が、他の共同相続人に対し債務を負担させ、その代りその相続人の相続分を多くするのは、分割を容易にするためにとられる便宜的方法であって、その債務自体が遺産に属しないのであるから、遺産分割そのものは協議の成立とともに終了し、その後は負担させられた債務者と債権者間の債権債務関係の問題として考えるべきものである。」と説く。
 この趣旨は、結局遺産分産の解除をせずとも、債務を負担した共同相続人に対し、他の相続人がその債務の強制履行を求めれば、それで、十分保護されるということであろう。
 しかし、これは本件のような場合には全く理由とはならない。
 確かに、他の相続人に対し負担した債務の内容によっては、右の理が妥当する余地はあろう。
 たとえば、現物分割にかえて一部の相続人が他の相続人のために持分放棄をするかわりに、金銭支払いの債務を負担したような場合である。
 しかし、本件の場合のように、
   (一) 被上告人は、上告人一郎、同太郎と兄弟として仲よく交際すること
   (二) 被上告人は長男として実母ユキ子と同居すること
   (三) 被上告人は実母ユキ子を扶養し、同女にふさわしい老後を送ることができるように最善の努力をするものとし、妻とともにユキ子の日々の食事はもとよりその他の身の廻りの世話をその満足をうるような方法で行なうこと
   (四) 被上告人は先祖の祭祀(浄土真宗、稲荷神社)を承継し、各祭事を誠実に実行すること
 以上のような内容の債務を負担した場合は、前記理由は全く妥当しない。
 この種の債務にあっては、強制履行は適さないし、また不可能でもあるからである。
 そうだとすると、本件のように右債務の履行のない場合には他の相続人保護のため、何らかの形で遺産分割の効力を覆しうる方法が考えられなければならないはずである。
  2 本件類似の債務を負担した債務者が、その債務を履行しない場合、次の各判例は財産を先渡しした債権者に、返還請求することを認めているのである。
   (一) 大判大正六年二月二八日民録二三輯二九二頁
 最判昭和二九年九月四日民集一八巻七号一三九四頁
 「結納は、婚姻の成立を確証し、あわせて婚姻が成立した場合に当事者ないし、当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与」であり、「婚姻不成立の場合は「当然その効力を失う。」として返還請求を認める。
 この場合、結納という贈与に付加した債務は将来婚姻をなすという、本件類似の強制履行に適さないものである。
   (二) 東京高判決昭和五二年七月一三日(判例時報八六九号五三頁)老年者が老後の物心両面の面倒をみてもらい、かつ家産や祭祀を継がせるため重要な財産の贈与した場合、右判例は右贈与を右債務の負担贈与と構成し、受贈者の義務違反を理由に贈与の解除を認めている。
  3 よって、本件の場合も同様に遺産の返還請求の前提として遺産分割の解除を認めてしかるべきである。
 義務違反の場合、遺産分割が当然失効するとするよりは、解除の意思表示を必要とする点明確であり、且つ、解除とすることで多数人の関与に対処する五四四条の適用が可能となるからである。
  4 もっとも民法五四一条解除の制度は、等価交換関係にある当事者間の法律関係を規律する取引法の分野に妥当するもので、遺産分割には妥当しないとする反論があるかもしれない。
 なるほど民法五四一条は本来取引法上の制度ではあろう。しかしながらその基本理念は、当事者の一方に義務違反がある場合、既に契約によって作出された権利関係を維持することが他方当事者との関係で平等を欠くと評価されうる場合、当該他方当事者にその権利関係を覆しうる手段を与えることである。
 だとすれば本件の場合に解除権が否定されるいわれはなく、前掲の二判例も同様の考えに立つものといえよう。
 三 以上、まとめると共同相続人の一人が他の共同相続人に対し、特定の行為をする債務を履行しないとしても他の相続人はその強制履行もなしえず、解除もできないとする解釈は、民法の相続人平等の趣旨に反するものといわざるを得ない。
 原判決の強調する分割協議の法的安定性といっても、第三者の関係においては、それを害する虞れもなく、また共同相続人間においても絶対の要請ではなく、一方の共同相続人平等の要請との調和を図りながら解釈されなければならないものである。
 すなわち「法的安定性」といっても結局は全法秩序の中での判断の一規準にすぎない。抽象的に法的安定性のみ金科玉条のごとく振りまわし、その結果原判決も認定するように「被控訴人(被上告人)が前記自由意思に基づき合意された控訴人(上告人)ら主張の四条件を履行する限り本件の如き訴えの提起に至らなかったこと」(原判決理由第一、二、1)が明らかな状況にあって「被控訴人(被上告人)が(訴外亡乙井)ユキ子と同居する以上、同人を扶養する義務あること及び先祖の祭祀を行なうべきものであることは、被控訴人(被上告人)の認めるところであり、兄弟仲よくすべきことも当然のことである」(原判決理由第一、二、2)のに、被控訴人(被上告人)が右訴外亡ユキ子に対し「食事の打ち切り、病気〈糖尿病〉治療に必要とする健康保険の打切り、椅子をもって顔面を殴打し傷害を負わせ」る等の「人倫に悖る非行」(原判決理由第一、二、4)を行なうなど、「控訴人(上告人)ら主張の四条件を履行しなかったこと」(原判決理由第一、二、2)を結局は放置するような法解釈を展開する原判決は、法の名の下に法秩序を破壊し、規範意識を歪めるものに他ならない。正に本末を誤まるものである。
 相続はすぐれて身分的、換言すれば非取引法的制度である。だからこそ遺産の分割は単純に法定相続分で行なうのではなく、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態、及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定められた(民法第九〇六条)のである。
 分割に当り、相続人が自己に帰属すべき法定相続分の全部あるいは大部分をある特定の他の相続人に帰属させるにつき条件を付した場合、当該条件が身分的なものであるほど、当該相続人にとっては必須の条件である場合が多い。本件はまさにこのようなケースである。にもかかわらず原判決は、これをどちらかといえば取引法的な概念である法的安定性のみで律しようとした点に根本的な誤りがあるのである。
 よって、遺産分割においても本件のような場合には、民法五四一条の適用を認めるべきであり、原判決にはこの点で法律解釈に誤りがあり、破棄されるべきものと思料する。

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その節は大変世話になりました。

大きな問題なくスムーズに解決できましたのも木野先生のおかげです。ありがとうございました。

あの時は、何もわからず不安でいっぱいでしたが、一つ一つ丁寧にご説明いただき、わかりやすくホッとしたことを思い出します。

やはり、相談に来られる方々は何かしら不安や心配事が多いと思いますが、木野先生の表情や話され方、又話をじっくり聞いてくださる姿勢はとても安心できると感じました。これからも変わらず長く続けてください!!

遺産分割協議と詐害行為取消権

最高裁平成11年6月11日判決(最高裁判所民事判例集53巻5号898頁

共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる。

       主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人松田義之の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 亡Bは、第一審判決別紙物件目録二記載の借地権を有する土地上に同一記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、右建物において妻であるCらと居住していた。
 2 Bは、昭和五四年二月二四日に死亡し、その相続人は、C並びに子である上告人A及び同Dの三名である。上告人Aは昭和五二年に、同Dは同五七年に、それぞれ婚姻し、その後、他所で居住するようになったが、Cは、本件建物に居住している。
 3 被上告人は、平成五年一〇月二九日、E及びFを連帯債務者として、同人らに対して三〇〇万円を貸し渡し、Cは、同日、被上告人に対し、右金銭消費貸借契約に係るEらの債務を連帯保証する旨を約した。
 4 本件建物の所有名義人は亡Bのままであったところ、Eらの被上告人に対する右債務に基づく支払が遅滞し、その期限の利益が失われたことから、被上告人は、平成七年一〇月一一日、Cに対し、右連帯保証債務の履行及び本件建物についての相続を原因とする所有権移転登記手続をするよう求めた。
 5 C及び上告人らは、平成八年一月五日ころ、本件建物について、Cはその持分を取得しないものとし、上告人らが持分二分の一ずつの割合で所有権を取得する旨の遺産分割協議を成立させ(以下「本件遺産分割協議」という。)、同日、その旨の所有権移転登記を経由した。
 6 Cは、被上告人の従業員に対し、右連帯保証債務を分割して長期間にわたって履行する旨を述べていたにもかかわらず、平成八年三月二一日、自己破産の申立てをした。
 二 【要旨】共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。そうすると、前記の事実関係の下で、被上告人は本件遺産分割協議を詐害行為として取り消すことができるとした原審の判断は、正当として是認することができる。記録によって認められる本件訴訟の経緯に照らすと、原審が所論の措置を採らなかったことに違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。
論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 河合伸一 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)

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 相続放棄につき詳しく説明いただき具体的なアドバイスもあり大変助かりました。ありがとうございます。

ご指摘の点を踏まえて親族と話し合い事前の対策を立てたいと思います。

遺産中の特定財産の持分権の譲受人による分割請求

最高裁昭和53年7月13日判決(最高裁判所裁判集民事124号317頁

共同相続人の一人が相続財産に属する不動産の共有持分を譲渡した場合と民法905条

       理   由

 上告代理人板野尚志の上告理由第二点について
 共同相続人の一人が遺産を構成する特定の不動産について同人の有する共有持分権を第三者に譲り渡した場合については、民法九〇五条の規定を適用又は類推適用することはできないものと解すべきである。これと同旨の原審の判断は正当であつて原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同第一点について
一 本訴における被上告人の上告人らに対する予備的請求は、被上告人が上告人らの先代亡藤田聯蔵の遺産に属する原判決別紙第二目録記載の各土地について共同相続人の一人である上告人藤田トシが有していた共有持分権六分の二の半分、すなわち六分の一を取得しその共有者となつたと主張し、上告人らとの間で民法二五八条に基づき右各土地を分割し、原判決別紙第一目録記載の各土地(以下「本件係争地」という。)を被上告人の所有と定めることを求めるとともに、右のように定められることを条件として上告人らに対し本件係争地につきそれぞれ共有物分割を原因とする共有持分の移転登記手続を求めるものである。そうして、右請求につき、第一審は、共同相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第三者が共同相続人間の協議又は家庭裁判所の審判手続による遺産分割前に右特定不動産について共有物分割の訴を提起することは許されないことを理由として、共有物分割を求める部分の訴を不適法として却下するとともに、分割を前提とした持分移転登記手続を求める請求を理由なしとして棄却したが、これに対し、原審は、右予備的請求を適法と解し、右請求の全部につき第一審判決を取り消して第一審に差し戻す旨の判決をしたことが明らかである。
二 しかしながら、原審の確定した事実関係によれば、上告人トシと上告人トシからの買主で被上告人に対する売主でもある訴外吉田朝次との間で締結された売買契約の目的となつた土地は、第二目録記載の土地全部ではなく、同目録記載の土地のうち本件係争地のみであり、したがつて、被上告人が吉田朝次から買い受けて取得した権利は上告人トシが本件係争地について有していた共有持分権六分の二にすぎないというのである。
 そうだとすると、被上告人は、第二目録記載の土地中本件係争地を除くその余の土地については共有持分権を有しない筋合であるから、右土地部分については共有物分割の訴を提起する当事者適格を有せず、したがつて、該訴を不適法として却下し、また、右分割を前提とする共有持分移転登記手続請求を理由なしとして棄却した第一審判決は、右土地部分についての請求に関しては結局正当であることに帰し、原審は、その限度では被上告人の上告人らに対する控訴を棄却すべきものであつたというべきである。してみれば、原判決には右の点において共有物分割の訴における当事者適格の解釈を誤つたか、又は理由齟齬の違法をおかしたことになるから、同旨をいう論旨は理由があり、原判決主文第一項中、原判決別紙第二目録記載の土地のうち本件係争地を除く部分につき第一審判決を取り消した部分は破棄を免れない。
 次に、職権をもつて調査すると、訴外吉田朝次が本件係争地につき上告人トシが有していた共有持分権六分の二を同上告人から買い受け、次いで同訴外人からさらに被上告人がこれを買い受けたことは前記説示のとおりである。そうだとすると、上告人トシは、本件係争地についてはもはや共有持分権を有しないことに帰するから、その共有物分割の訴につき当事者適格を有しないことは明らかであり、したがつて、本件共有物分割の訴を不適法として却下し、また、右分割を前提とする共有持分移転登記手続請求を理由なしとして棄却した第一審判決は上告人トシとの関係においては本件係争地部分に関しても結局正当であるから、原審は、被上告人の上告人トシに対する控訴をこの点についても棄却すべきものであつたというべきである。してみれば、原判決には右の点においても共有物分割の訴に関する当事者適格の解釈を誤つた違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決主文第一項中、本件係争地につき第一審判決を取り消した部分は上告人トシとの関係においては破棄を免れない。
 そうして、以上の説示によれば、第一審判決中、原判決別紙第二目録記載の土地のうち本件係争地を除くその余の土地につき、共有物分割の訴を却下し、右分割の訴を前提とする共有持分の移転登記手続請求を棄却した判断は上告人ら全部との関係において、また、本件係争地につき、共有物分割の訴を却下し、右分割を前提とする共有持分の移転登記手続請求を棄却した判断は上告人トシとの関係において、いずれも結局正当であつて、被上告人の控訴は理由がないことに帰するからこれを棄却すべきである。次に、原判決中、(1)被上告人の主位的請求につき上告人トシに対する関係において本件係争地の共有持分六分の一の移転登記請求を認容した部分に対する上告人トシの上告並びに(2)被上告人の予備的請求のうち、六分の一の共有持分権に基づき本件係争地の分割を求める訴及び右分割を前提として共有持分移転登記手続を求める訴についてされた第一審判決を取り消し第一審に差し戻すべきものとした部分に対する上告人トシを除くその余の上告人らの上告は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 岸 盛一・岸上康夫・藤崎萬里・本山 亨)

株式等の共同相続

最高裁 平成26年2月25日判決( 最高裁判所民事判例集68巻2号173頁 )

被相続人が預金,株式,国債などの金融商品を有していた場合,相続によりその金融商品の帰属はどうなるか

       主   文

 原判決を破棄する。
 本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人村井正昭の上告受理申立て理由について
 1 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人ら及び被上告人は,いずれも平成17年9月30日に死亡した亡Aの子である。亡Aの法定相続人は,上告人ら及び被上告人の4名であり,その法定相続分は各4分の1である。
 (2) 被上告人は,亡Aの遺産の分割等の審判を申し立て,第1審判決別紙有価証券目録(以下「本件有価証券目録」という。)記載1及び2の国債(以下「本件国債」という。),同目録記載3から5までの投資信託受益権(以下「本件投信受益権」という。)並びに同目録記載6の株式(以下「本件株式」といい,本件国債及び本件投信受益権と併せて「本件国債等」という。)をいずれも上告人ら及び被上告人が各持分4分の1の割合で共有することを内容とする遺産の分割等の審判(以下「本件遺産分割審判」という。)がされ,同審判は,平成21年3月25日,確定した。
 2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,①主位的請求として,本件国債等の共有物分割を求めるとともに,②主位的請求に係る訴えが不適法とされた場合の予備的請求として,本件国債及び本件投信受益権につき上告人らと被上告人が4分の1ずつ分割して取得することができるようにする手続を行うこと並びに本件株式につき上告人らが4分の1ずつ分割して取得することができるよう名義書換手続を行うことを求める事案である。
 3 原審は,①上記主位的請求につき,本件国債等はいずれも亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,共同相続人の準共有となることがないから,本件遺産分割審判は,本件国債等が4分の1の割合に相当する金額,口数又は数に分割されて上告人ら及び被上告人に帰属している旨を確認したにすぎないものと解するのが相当であるなどとして,主位的請求に係る訴えを不適法なものとして却下し,②上記予備的請求については,上告人らが,被上告人に対し,実体法上,上告人らが主張するような権利を有するものとは認められないとして,予備的請求に係る訴えを不適法なものとして却下した。
 4 しかし,上記主位的請求に係る原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 株式は,株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し,株主は,株主たる地位に基づいて,剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号),残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和42年(オ)第1466号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照),このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和42年(オ)第867号同45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号1頁等参照)。
 (2) 本件投信受益権のうち,本件有価証券目録記載3及び4の投資信託受益権は,委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ,この投資信託受益権は,口数を単位とするものであって,その内容として,法令上,償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか,信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており,可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された上記投資信託受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
 また,本件投信受益権のうち,本件有価証券目録記載5の投資信託受益権は,外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権であるところ,外国投資信託は,外国において外国の法令に基づいて設定された信託で,投資信託に類するものであり(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項),上記投資信託受益権の内容は,必ずしも明らかではない。しかし,外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば,上記投資信託受益権についても,委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。
 (3) 本件国債は,個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債であるところ,個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ,その権利の帰属を定めることとなる社債,株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は,上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条),取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も,上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると,個人向け国債は,法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり,このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば,共同相続された個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
 (4) 以上のとおり,本件国債等は,亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることがないものか,又はそう解する余地があるものである。そして,本件国債等が亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものでなければ,その最終的な帰属は,遺産の分割によって決せられるべきことになるから,本件国債等は,本件遺産分割審判によって上告人ら及び被上告人の各持分4分の1の割合による準共有となったことになり,上告人らの主位的請求に係る訴えは適法なものとなる。
 5 以上と異なる見解の下,本件国債等が亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとして上告人らの主位的請求に係る訴えを却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人らの主位的請求に係る訴えを却下した部分は破棄を免れない。そして,上告人らの主位的請求に係る訴えについて原判決が破棄を免れない以上,予備的請求に係る訴えを却下した部分についても原判決は当然に破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥)

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預貯金債権の共同相続

最高裁平成28年12月19日判決( 最高裁判所民事判例集70巻8号2121頁)

共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は遺産分割の対象となるか

       主   文

 原決定を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 抗告代理人久保井一匡ほかの抗告理由について
 1 本件は,Aの共同相続人である抗告人と相手方との間におけるAの遺産の分割申立て事件である。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 抗告人は,Aの弟の子であり,Aの養子である。相手方は,Aの妹でありAと養子縁組をしたB(平成14年死亡)の子である。
 (2) Aは,平成24年3月▲日に死亡した。Aの法定相続人は,抗告人及び相手方である。
 (3) Aは,原々審判別紙遺産目録記載の不動産(価額は合計258万1995円。以下「本件不動産」という。)のほかに,別紙預貯金目録記載の預貯金債権(以下「本件預貯金」と総称する。)を有していた。抗告人と相手方との間で本件預貯金を遺産分割の対象に含める合意はされていない。
 Bは,Aから約5500万円の贈与を受けており,これは相手方の特別受益に当たる。
 3 原審は,上記事実関係等の下において,本件預貯金は,相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて分割取得し,相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とならないなどとした上で,抗告人が本件不動産を取得すべきものとした。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 相続人が数人ある場合,各共同相続人は,相続開始の時から被相続人の権利義務を承継するが,相続開始とともに共同相続人の共有に属することとなる相続財産については,相続分に応じた共有関係の解消をする手続を経ることとなる(民法896条,898条,899条)。そして,この場合の共有が基本的には同法249条以下に規定する共有と性質を異にするものでないとはいえ(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁参照),この共有関係を協議によらずに解消するには,通常の共有物分割訴訟ではなく,遺産全体の価値を総合的に把握し,各共同相続人の事情を考慮して行うべく特別に設けられた裁判手続である遺産分割審判(同法906条,907条2項)によるべきものとされており(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照),また,その手続において基準となる相続分は,特別受益等を考慮して定められる具体的相続分である(同法903条から904条の2まで)。このように,遺産分割の仕組みは,被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから,一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく,また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金のように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる。
 ところで,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点においては,本件で問題とされている預貯金が現金に近いものとして想起される。預貯金契約は,消費寄託の性質を有するものであるが,預貯金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には,預貯金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,各種料金の自動支払,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれている(最高裁平成19年(受)第1919号同21年1月22日第一小法廷判決・民集63巻1号228頁参照)。そして,これを前提として,普通預金口座等が賃金や各種年金給付等の受領のために一般的に利用されるほか,公共料金やクレジットカード等の支払のための口座振替が広く利用され,定期預金等についても総合口座取引において当座貸越の担保とされるなど,預貯金は決済手段としての性格を強めてきている。また,一般的な預貯金については,預金保険等によって一定額の元本及びこれに対応する利息の支払が担保されている上(預金保険法第3章第3節等),その払戻手続は簡易であって,金融機関が預金者に対して預貯金口座の取引経過を開示すべき義務を負うこと(前掲最高裁平成21年1月22日第一小法廷判決参照)などから預貯金債権の存否及びその額が争われる事態は多くなく,預貯金債権を細分化してもこれによりその価値が低下することはないと考えられる。このようなことから,預貯金は,預金者においても,確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえる。
 共同相続の場合において,一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながら,遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきているが,これも,以上のような事情を背景とするものであると解される。
 (2) そこで,以上のような観点を踏まえて,改めて本件預貯金の内容及び性質を子細にみつつ,相続人全員の合意の有無にかかわらずこれを遺産分割の対象とすることができるか否かにつき検討する。
 ア まず,別紙預貯金目録記載1から3まで,5及び6の各預貯金債権について検討する。
 普通預金契約及び通常貯金契約は,一旦契約を締結して口座を開設すると,以後預金者がいつでも自由に預入れや払戻しをすることができる継続的取引契約であり,口座に入金が行われるたびにその額についての消費寄託契約が成立するが,その結果発生した預貯金債権は,口座の既存の預貯金債権と合算され,1個の預貯金債権として扱われるものである。また,普通預金契約及び通常貯金契約は預貯金残高が零になっても存続し,その後に入金が行われれば入金額相当の預貯金債権が発生する。このように,普通預金債権及び通常貯金債権は,いずれも,1個の債権として同一性を保持しながら,常にその残高が変動し得るものである。そして,この理は,預金者が死亡した場合においても異ならないというべきである。すなわち,預金者が死亡することにより,普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ,その帰属の態様について検討すると,上記各債権は,口座において管理されており,預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し,各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。そして,相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが,預貯金契約が終了していない以上,その額は観念的なものにすぎないというべきである。預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され,その後口座に入金が行われるたびに,各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に,入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは,預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり,その合理的意思にも反するとすらいえよう。
 イ 次に,別紙預貯金目録記載4の定期貯金債権について検討する。
 定期貯金の前身である定期郵便貯金につき,郵便貯金法は,一定の預入期間を定め,その期間内には払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項4号),原則として預入期間が経過した後でなければ貯金を払い戻すことができず,例外的に預入期間内に貯金を払い戻すことができる場合には一部払戻しの取扱いをしないものと定めている(59条,45条1項,2項)。同法が定期郵便貯金について上記のようにその分割払戻しを制限する趣旨は,定額郵便貯金や銀行等民間金融機関で取り扱われている定期預金と同様に,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,貯金の管理を容易にして,定期郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにあるものと解される。
 郵政民営化法の施行により,日本郵政公社は解散し,その行っていた銀行業務は株式会社ゆうちょ銀行に承継された。ゆうちょ銀行は,通常貯金,定額貯金等のほかに定期貯金を受け入れているところ,その基本的内容が定期郵便貯金と異なるものであることはうかがわれないから,定期貯金についても,定期郵便貯金と同様の趣旨で,契約上その分割払戻しが制限されているものと解される。そして,定期貯金の利率が通常貯金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ,上記の制限は,預入期間内には払戻しをしないという条件と共に定期貯金の利率が高いことの前提となっており,単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきである。しかるに,定期貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定期貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,仮に同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記の制限がある以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。
 ウ 前記(1)に示された預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
 (3) 以上説示するところに従い,最高裁平成15年(受)第670号同16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁その他上記見解と異なる当裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。
 5 以上によれば,本件預貯金が遺産分割の対象とならないとした原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官岡部喜代子の補足意見,裁判官大谷剛彦,同小貫芳信,同山崎敏充,同小池裕,同木澤克之の補足意見,裁判官鬼丸かおる,同木内道祥の各補足意見,裁判官大橋正春の意見がある。
 裁判官岡部喜代子の補足意見は,次のとおりである。
 共同相続が発生したとき,相続財産は民法898条,899条により相続分に応じた共有となる。その財産が金銭の給付を目的とする債権であっても同様である。当該債権については民法264条の規律するところになるのであるが,同条の特則としての民法427条により相続人ごとに分割されて相続人の数だけ債権が存在することとなると考えられているところである。しかし,共同相続においては上記のとおりまず準共有状態が発生するのであるから,分割を阻害する要因があれば,分割されずに準共有状態のまま存続すると解することが可能である。普通預金契約(通常貯金契約を含む。以下同じ。)の本体は消費寄託契約ではあるが,そればかりではなく,付随して口座振替等の準委任契約が締結されることも多いのであって,普通預金が決済手段としての性格を強めていることは多数意見の指摘するとおりである。そうすると,普通預金債権を共同相続した場合には,共同相続人は同時に準委任契約上の権利義務もまた相続により承継することになる。例えば口座振替契約の解約を行う場合は,それは性質上不可分な形成権の行使であり,かつ,処分行為であるから民法251条により相続人全員で行わなければならない。ところが預貯金債権が当然に分割され各人の権利行使が認められることになると,共同相続人の一人が自己の持分に相当する預貯金を全額払い戻して預貯金債権を行使する必要がなくなる結果,預貯金契約自体あるいは口座振替契約等についての処理に支障が生ずる可能性がある。また,各別の預貯金債権の行使によって,1個の預貯金契約ないし一つの口座中に,共同相続人ごとに残高の異なる複数の預貯金債権が存在するという事態が生じざるを得ない。このような事態は,振込等があって残高が変動しつつも同一性を保持しながら1個の債権として存続するという普通預金債権の性質に反する状況ともいい得るところであり,また普通預金契約を締結する当事者の意思としても認めないところであろう。共同相続の場合には,普通預金債権について相続人各別の行使は許されず,準共有状態が存続するものと解することが可能となる。以上のとおりであるから,多数意見の結論は,預貯金債権について共同相続が発生した場合に限って認められるものであろう。
 ところで,私は,民法903条及び904条の2の文理並びに共同相続人間の実質的公平を実現するという趣旨に鑑みて,可分債権は共同相続により当然に分割されるものの,上記各条に定める「被相続人が相続開始の時において有した財産」には含まれると解すべきであり,分割された可分債権の額をも含めた遺産総額を基に具体的相続分を算定し,当然分割による取得額を差し引いて各相続人の最終の取得額を算出すべきであると考えている。従前は預貯金債権も当然に分割される可分債権に含まれると考えてきた。しかし,最高裁判所が権利の性質を詳細に検討して少しずつ遺産分割の対象財産に含まれる権利を広げてきたという経緯,預貯金債権も遺産分割の対象とすることが望ましいとの結論の妥当性,そして上記のとおり理論的にも可能であるという諸点から多数意見に賛同したいと思う。ただ,当然に分割されると考えられる可分債権はなお各種存在し,預貯金債権が姿を変える場合もあり得るところ,それらについては上記のとおり具体的相続分の算定の基礎に加えるなどするのが相当であると考える。
 裁判官大谷剛彦,同小貫芳信,同山崎敏充,同小池裕,同木澤克之の補足意見は,次のとおりである。
 従来,預貯金債権は相続開始と同時に当然に各共同相続人に分割され,各共同相続人は,当該債権のうち自己に帰属した分を単独で行使することができるものと解されていたが,多数意見によって遺産分割の対象となるものとされた預貯金債権は,遺産分割までの間,共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなる。そうすると,例えば,共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることができない場合に不都合が生ずるのではないかが問題となり得る。このような場合,現行法の下では,遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分として,例えば,特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために,相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200条2項)等を活用することが考えられ,これにより,共同相続人間の実質的公平を確保しつつ,個別的な権利行使の必要性に対応することができるであろう。
 もとより,預貯金を払い戻す必要がある場合としてはいくつかの類型があり得るから,それぞれの類型に応じて保全の必要性等保全処分が認められるための要件やその疎明の在り方を検討する必要があり,今後,家庭裁判所の実務において,その適切な運用に向けた検討が行われることが望まれる。
 裁判官鬼丸かおるの補足意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見に賛同するものであるが,普通預金債権及び通常貯金債権の遺産分割における取扱いに関して,以下のとおり私見を付したい。
 1 遺産分割とは,被相続人の死亡により共同相続人の遺産共有に属することとなった個々の相続財産について,その共有関係を解消し,各共同相続人の単独所有または民法第2編第3章第3節の共有関係にすることであるから,遺産分割の対象となる財産は,相続開始時に存在し,かつ,分割時にも存在する未分割の相続財産であると解される。そして,多数意見が述べるとおり,普通預金債権及び通常貯金債権は相続開始と同時に当然に分割される債権ではないから,相続人が数人ある場合,共同相続人は,被相続人の上記各債権を相続開始時の残高につき準共有し,これは遺産分割の対象となる。一方,相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われ,その残高が増加した分については,相続を直接の原因として共同相続人が権利を取得するとはいえず,これが遺産分割の対象となるか否かは必ずしも明らかでなかった。
 しかし,多数意見が述べるとおり,上記各債権は,口座において管理されており,預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在するのであるから,相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われた場合,上記契約の性質上,共同相続人は,入金額が合算された1個の預貯金債権を準共有することになるものと解される。
 そうすると,被相続人名義の預貯金債権について,相続開始時の残高相当額部分は遺産分割の対象となるがその余の部分は遺産分割の対象とならないと解することはできず,その全体が遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。多数意見はこの点について明示しないものの,多数意見が述べる普通預金債権及び通常貯金債権の法的性質からすると,以上のように解するのが相当であると考える。
 2 以上のように解すると,①相続開始後に相続財産から生じた果実,②相続開始時に相続財産に属していた個々の財産が相続開始後に処分等により相続財産から逸出し,その対価等として共同相続人が取得したいわゆる代償財産(例えば,建物の焼失による保険金,土地の売買代金等),③相続開始と同時に当然に分割された可分債権の弁済金等が被相続人名義の預貯金口座に入金された場合も,これらの入金額が合算された預貯金債権が遺産分割の対象となる(このことは,果実,代償財産,可分債権がいずれも遺産分割の対象とならないと解されることと矛盾するものではない。)。この場合,相続開始後に残高が増加した分については相続開始時に預貯金債権として存在したものではないところ,具体的相続分は相続開始時の相続財産の価額を基準として算定されるものであることから(民法903条,904条の2),具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価額をどう捉えるかが問題となろう。この点については,相続開始時の預貯金債権の残高を具体的相続分の算定の基礎とすることが考えられる一方,上記②,③の場合,当該入金額に相当する財産は相続開始時にも別の形で存在していたものであり,相続財産である不動産の価額が相続開始後に上昇した場合等とは異なるから,当該入金額に相当する相続開始時に存在した財産の価額を具体的相続分の算定の基礎に加えることなども考え得るであろう。もっとも,具体的相続分は遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額またはその価額の遺産の総額に対する割合を意味するのであるから(最高裁平成11年(受)第110号同12年2月24日第一小法廷判決・民集54巻2号523頁参照),早期にこれを確定することが手続上望ましいところ,後者の考え方を採る場合,相続開始後の預貯金残高の変動に応じて具体的相続分も変動し得ることとなり,事案によっては具体的相続分の確定が遅れかねないなどの遺産分割手続上の問題が残される。従来から家庭裁判所の実務において,上記①~③の財産も,共同相続人全員の合意があれば具体的相続分の算定の基礎ないし遺産分割の対象としてきたとみられるところであり,この問題については,共同相続人間の実質的公平を図るという見地から,従来の実務の取扱いとの均衡等も考慮に入れて,今後検討が行われることが望まれよう。
 裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
 私は多数意見に賛同するものであるが,以下のとおり,私見を付加しておきたい。
 多数意見は,遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的公平を図ることを旨として相続により生じた相続財産の共有状態の解消を図るものであり,被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提に,預貯金が現金に極めて近く,遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて,本件で問題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らし,上記各債権が共同相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるとしたものであると理解することができる。
 私は,以上の点に加えて,預貯金債権は,その額面額をもって価額と評価することができることからしても,共同相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となると考えるものである。
 遺産分割の審判においては,各相続人の具体的相続分の算定と取得財産の決定という二つの場面で,個別の相続財産の価額を評価することが求められる。前者については,被相続人が相続開始時において有した財産,遺贈や生前贈与として持ち戻される財産の価額に基づいて,寄与分を考慮した上で,各相続人の具体的相続分の価額及び割合が算定される(民法903条,904条の2)。後者については,遺産分割時に存在する財産をその時点の価額で評価した上で,各相続人の具体的相続分の割合に応じて,各相続人が取得する財産が定められる。
 しかるに,債権については,その有無,額面額及び実価(評価額)について共同相続人全員の合意がある場合を除き,一般的に評価が困難というべきである。そのため,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとすると,各相続人の具体的相続分の算定や取得財産の決定が困難となり,遺産分割手続の進行が妨げられ,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができないという事態を生ずるおそれがある。共有状態にある相続財産については各相続人の権利行使が制約されることを考慮すると,このような状態はなるべく早く解消されるべきである。
 遺産分割の審判においては,共同相続人間の実質的公平を図るために特別受益の持戻しや寄与分の考慮を経て具体的相続分を算定して遺産分割が実現されるところ,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとして具体的相続分の算定が困難となり,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができず,相続財産に対する各相続人の権利行使が制約される状態が続くことは,遺産分割審判制度の趣旨に反する。したがって,額面額をもって実価(評価額)とみることができない可分債権については,上記合意がない限り,遺産分割の対象とはならず,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものと解するのが相当である。なお,民法903条,904条の2は,同法第5編第3章第3節「遺産の分割」の前に位置するが,遺産分割の基準である具体的相続分を算定するためのものであるから,遺産分割の対象とならない上記可分債権は,これらの規定にいう「相続開始の時において有した財産」には含まれないと解される。
 これに対して,預貯金債権の場合,支払の確実性,現金化の簡易性等に照らし,その額面額をもって実価(評価額)とみることができるのであるから,上記可分債権とは異なり,これを遺産分割の対象とすることが遺産分割の審判を困難ならしめるものではない。
 したがって,預貯金債権は,共同相続人全員の合意の有無にかかわらず,遺産分割の対象となると解するのが相当である。
 裁判官大橋正春の意見は,次のとおりである。
 私は,原決定を破棄し,本件を原審に差し戻すとの多数意見の結論には賛成するものであるが,その理由については考えを異にするので,意見を述べたい。
 1 多数意見は,原決定による遺産分割の結果が著しく抗告人に不利益なものであり,その原因は預貯金債権が遺産分割の対象とならなかったことにあると考え,これを解決する方策として,判例を変更して,普通預金債権及び通常貯金債権は最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁にいう「可分債権」に当たらないとするものであると理解することができる。
 しかし,多数意見の立場は,問題の設定を誤ったものであり,問題の根本的解決に結び付くものでないだけでなく新たな問題を生じさせるものといわなければならない。預貯金債権を準共有債権と解したとしても,他の種類の債権について本件と同様に不公平な結果が生ずる可能性は依然として残されている。例えば,本件と,被相続人が判決で確定した国に対する国家賠償法上の損害賠償請求権を有していた事案とで結論が異なるのが相当なのかという疑問が生ずる。
 2 問題は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割される可分債権を遺産分割において一切考慮しないという現在の実務(以下「分割対象除外説」という。)にあるといえる。これに対して,私は,可分債権を含めた相続開始時の全遺産を基礎として各自の具体的相続分を算定し,これから当然に分割されて各自が取得した可分債権の額を控除した額に応じてその余の遺産を分割し,過不足は代償金で調整するという見解(以下「分割時考慮説」という。)を採用すべきものと考える。その理由は,次のとおりである。
 遺産の分割は,遺産全体の価値を総合的に把握し,これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法906条所定の基準に従って分割することを目的とするものであり(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照),ここにいう「遺産全体」が相続開始時において被相続人の財産に属した一切の権利義務(同法896条)を指すことには疑問がない。したがって,遺産分割とは,相続開始時において被相続人の財産に属した一切の権利義務を具体的相続分に応じて共同相続人に分配することであるといえる。これに対して,分割対象除外説は,遺産を構成する個々の相続財産の共有関係(同法898条)を解消する手続が遺産分割であると捉え,かつ,可分債権について共有関係が生じないと解して,可分債権は遺産分割の対象とならないものとする。しかし,個々の相続財産の共有関係を解消する手続は,遺産全体を具体的相続分に応じて共同相続人に分配するという遺産分割を実現するための手続にすぎないのであるから,この意味における遺産分割の適切な実現を阻害する分割対象除外説を採用することはできず,分割時考慮説が正当なものと考えられる。
 分割対象除外説によれば,遺産分割時に預貯金が残存している場合には,具体的相続分に応じた分配をすることができるのに対し,共同相続人の1人が被相続人の生前に無断で預貯金を払い戻した場合には,被相続人が取得した損害賠償請求権または不当利得返還請求権について具体的相続分に応じた分配をすることができない。これに対して,分割時考慮説によれば,後者の場合においても具体的相続分に応じた分配をすることができ,結果の衡平性という点においてより優れている。また,遺言をしない被相続人の中には法律の規定に従って遺産分割が行われることを期待した者がいると考えられるところ,法律の専門家でない一般の被相続人としては,遺産を構成する債権が可分債権であるか否かによって結果は異ならないと期待していたと考えるのが自然である。したがって,分割対象除外説は被相続人の期待に反する結果を生じさせるものということができる。
 分割時考慮説を採用することにより,家事審判事件が増加し,家庭裁判所の負担が増加することが考えられる。しかし,家庭裁判所の実務では当事者の合意を前提に可分債権を遺産分割の対象とすることがかなりの範囲で行われていること,分割時考慮説と分割対象除外説とで極端な結論の違いが生ずるのはまれで,多くの場合には具体的相続分と法定相続分の乖離は小さいと推測されることなどからすると,家庭裁判所における適正な事務処理を阻害するような著しい負担の増加はないであろうと考える。
 よって,分割対象除外説に基づく原決定を破棄し,分割時考慮説に基づき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当であると考えるものである。
 3 最後に,普通預金債権及び通常貯金債権を準共有債権とすると,問題の根本的解決にならないばかりか新たな不公平を生み出すほか,被相続人の生前に扶養を受けていた相続人が預貯金を払い戻すことができず生活に困窮する,被相続人の入院費用や相続税の支払に窮するといった事態が生ずるおそれがあること,判例を変更すべき明らかな事情の変更がないことなどから,普通預金債権及び通常貯金債権を可分債権とする判例を変更してこれを準共有債権とすることには賛成できないことを指摘しておきたい。
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 櫻井龍子 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 木内道祥 裁判官 山本庸幸 裁判官 山崎敏充 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 菅野博之)

 (別紙)
       預貯金目録
 1 三井住友銀行a支店 普通預金(口座番号○○○○○○○)          265円
 2 三井住友銀行b支店 普通預金(口座番号○○○○○○)        6万8729円
 3 ゆうちょ銀行 通常貯金(記号番号○○○○○-○○○○○○○○)      762円
 4 ゆうちょ銀行 定期貯金(記号番号○○○○○-○○○○○○○)    3万円
 5 三菱東京UFJ銀行c支店 普通預金(口座番号○○○○○○○)  245万7956円
 6 三菱東京UFJ銀行c支店 外貨普通預金(口座番号○○○○○○○) 36万4600.62ドル
                          (残高は,いずれも平成25年8月23日現在)
       抗告代理人久保井一匡ほかの抗告理由について
第1 はじめに
   原決定は,可分債権である預貯金については,預金者の死亡によって法定相続分に応じて当然に分割承継し,相続人全員の合意がない限り,遺産分割手続きにおいて預貯金を遺産分割の対象とすることはできないとする(同3頁)。
   しかしながら,本件では,被相続人Aには遺産として,預貯金が約35万ドルと約225万円,それ以外に不動産(約260万円)が存在するとともに,相手方に対する特別受益として5500万円が存在することが認められている。従って,本来,相手方の具体的相続分はゼロになり,申立人の具体的相続分が全額になる。それにもかかわらず,預貯金が遺産分割の対象に含まれない結果,5500万円の特別受益はわずか約260万円の不動産でしか考慮されなくなる。
   特に,被相続人Aの晩年は,申立人が夫と2人で同人の手足となって生活を支え,被相続人Aが亡くなってからも葬式や法要等を申立人において執り行ってきた一方で,相手方は,アメリカに在住しており被相続人Aの生前も死後も同人の面倒等を看ることはなかった(甲35)。
   このように,原決定に従えば,現に遺産として預貯金が存在しているにもかかわらず,預貯金が可分債権であることを理由に遺産分割の対象にならない結果,民法上認められた特別受益制度を害するだけでなく,具体的相続分を通じた共同相続人間の実質的公平が実現できなくなり,原決定の判断は民法903条,同906条,同912条等に違反する。そのため,少なくとも,本件のように遺産の大半が預貯金で,かつ特定の相続人に特別受益が認められる結果,預貯金を遺産分割の対象に含めなければ特別受益による実質的公平が実現できなくなるような事案の場合には,特別受益を受けた当該相続人の合意がなくても預貯金は遺産分割の対象に含められなければならない。以下,詳述する。
第2 原決定に従えば,共同相続人間の実質的公平を図るべく定められた特別受益制度や民法906条等の趣旨を害する結論となることなど
 1 預貯金が可分債権であるという解釈によって,民法上明文化された制度趣旨が害されること
  (1)民法は,相続財産全体を共同相続人間の実質的公平を考慮して合目的的に分割することを遺産分割の目的としている。そして,かかる共同相続人間の実質的な公平を図る観点から,共同相続人中に,被相続人から遺贈を受けたり,生計の資本として贈与を受けた者がある場合に,それらの財産を持ち戻したうえで,相続分を計算して遺産を取得することとした特別受益制度を規定している(民法903条)。また,民法906条は,共同相続人間の実質的公平を考慮して分割することを本旨とする遺産の分割の場面での基準を示したもので,個別的な事件の事情を考慮することにより,共同相続人間の実質的公平を実現する遺産の配分を期待して定められている(甲43)。
    さらに,民法912条は,「各相続人は,その相続分に応じ,他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について,その分割時の時における債務者の資力を担保する」として,債権が遺産分割の対象になることを前提とした規定がされている(甲44・309頁参照)。
  (2)他方,預貯金が遺産分割の対象になるかどうかについては,最高裁昭和29年4月8日判決が,「金銭債権その他の可分債権あるときは,その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべき」と判断したことを根拠に,当然分割され,遺産分割の対象にならないと解されている。もっとも,後述するが,同判決は,不法行為債権について対債務者との関係で,その金銭債権の法的性質が問題になった事案にすぎない。つまり,同判決は,あくまで,対債務者との関係で金銭債権(不法行為債権)が分割帰属するかどうかが争われた事案にすぎず,共同相続人間において預貯金が遺産分割の対象に含まれるかどうかについては何ら判断されていない。
    また,学説でも,預貯金が遺産分割の対象になるかどうかについて,分割債権説,非分割債権説,折衷説などに分かれている。折衷説の中でも,①分割債権説をとりながら,分割債権でも常に遺産分割の対象となるとするもの,②場合により遺産分割の対象となるとするもの〔(Ⅰ)当該事案における具体的妥当性を考慮して遺産分割の対象となるとする説,(Ⅱ)相続人間の合意を要件に遺産分割の対象となるとする説〕などに分かれている(甲41・73頁)。
    このように,預貯金が可分債権であり遺産分割の対象に含まれないとしているのは,あくまで解釈で認められているだけにすぎない。しかも,分割債権説に対しては,後述するとおり多くの批判がされている。
  (3)それにもかかわらず,原決定の判断に従えば,預貯金が可分債権であるといった解釈上の理解によって,法律上明文化された特別受益制度(民法903条)や同法906条,912条の趣旨等を害する結論となる。
 2 原決定に従えば,遺産の種類が預貯金か現金・不動産かなど偶然の事情によって遺産の取得額が異なり不当であること
  (1)原決定に従えば,預貯金が遺産分割の対象に含まれない結果,遺産の種類(例えば,預貯金か現金・不動産かなど)によって,それらの遺産を遺産分割の対象にできるかどうかが違ってくるため,遺産の種類が何かといった偶然の事情によって,遺産の取得額が異なってくることになり極めて不当な結論となる。
  (2)例えば,次のような各ケースを考えれば明らかである。
   ア 相続人が2人(AとB)で,このうちAに特別受益が2000万円認められる場合に,その遺産が『現金2000万円』であれば,遺産分割手続きを経てBは2000万円を取得し,Aの取得分はゼロになる。しかしながら,仮に,その遺産が『預貯金2000万円』であれば,預貯金を遺産分割の対象にできない結果,AもBも1000万円を取得することになる。この理は,遺産の種類が,現金ではなく,不動産や定額郵便貯金,投資信託の場合も同様である。
   イ また,同様の事案において,被相続人が,死亡直前に『預貯金2000万円』を解約して『現金』として保管していたり,『不動産』を購入していた場合には,特別受益を考慮して遺産分割ができるにもかかわらず,逆に,被相続人が死亡直前に『現金2000万円』を『預貯金』として預けたり,『不動産(2000万円相当)』を売却してその売却代金を『預貯金』として預けていた場合には,遺産分割の対象に含めることができず,特別受益を考慮した遺産分割ができなくなる。
  (3)本件でも,本来,相手方に対する特別受益5500万円が認められるために,相手方は具体的相続分がゼロで,申立人の具体的相続分が全額になるはずであるにもかかわらず,偶々,被相続人Aの遺産が『預貯金』であったために遺産分割の対象に含まれない結果,相手方に対する5500万円の特別受益は,わずか約260万円の不動産でしか考慮されなくなる。
    このように,遺産の種類が何かといった偶然の事情によって,遺産分割の対象に含めることができるかどうかが異なり,本件のように特別受益が存在する場合で,遺産の大半が預貯金の場合には,預貯金を遺産分割の対象に含めることができない結果,特別受益制度(民法903条)を害するとともに,遺産分割を通じて共同相続人間の実質的公平を実現しようとした民法906条の制度趣旨も害することになる。
 3 特別受益を得ている相続人からの同意は期待できず,当該相続人からの同意がなくても,それ以外の相続人が同意している場合には遺産分割の対象に含められるべきであること
   原決定は,共同相続人全員の同意があれば,可分債権である預貯金も遺産分割の対象に含めることができるとしている(同3頁)。現在の家庭裁判所の実務運用も,共同相続人の同意があれば,預貯金を遺産分割の対象に含めて審判することができるとされている(甲45・303頁)。このような実務運用が実践されているのは,預貯金を遺産分割の対象に含めることによって,柔軟・円滑かつ実質的公平を図った遺産分割を行うことができるからである。
   もっとも,本件のように特別受益を得ている相続人からすれば,同意しない方が自らに有利になる以上,当該相続人から同意を得ることは期待できない。このことは,森野俊彦大阪高等裁判所判事によって,「相続人のひとりが,預金債権を分割対象にしない方が自分に有利になると考えて,預金債権を分割対象に含めることに反対した場合である。もはや『黙示ないし明示の同意』を媒介とすることはできない。」と指摘されているところである(甲41・74頁)。また,窪田充見教授も,「自らの特別受益が大きいことを認識している相続人であれば,そのような同意を与えないのが,むしろ経済的には合理的な行動となる」と指摘している(甲46・124頁)。このように,一律に,共同相続人全員の同意がなければ預貯金が遺産分割の対象に含まれないとする点について疑問が呈されている。
   従って,原決定のように,預貯金を遺産分割の対象に含めることができるかどうかについて,常に共同相続人全員の同意を要件とした場合,特別受益を得ている相続人による恣意的な判断によって,遺産分割の結論自体が左右され,相続人間の実質的公平を著しく害することになり,特別受益制度(民法903条)や民法906条の制度趣旨を害することになる。そのため,特別受益が認められる相続人の同意がなかったとしても,それ以外の共同相続人が同意をしている場合には,預貯金も遺産分割の対象に含められなければならない。
   本件では,特別受益を得ている相手方だけが預貯金を遺産分割対象に含めることに反対しているにすぎない以上,相手方の同意がなかったとしても,預貯金は遺産分割の対象に含められなければならない。
 4 預貯金を遺産分割の対象に含めたとしても実務への影響は大きくないこと
   銀行を中心とした金融機関の実務でも,預貯金の払戻しにあたっては,相続人間の争いに巻き込まれないようにするために,相続に関する書類のほか,相続人の遺産分割協議書や相続人全員の署名・捺印等が要求されている(甲47・436~437頁)。従って,預貯金を遺産分割の対象に含めたとしても実務への影響は大きいとまではいえない。
 5 小括
   以上のとおり,原決定が,本件の事情を考慮することなく,預貯金が可分債権であることを理由に,一律に,共同相続人全員の同意がない限り,預貯金を遺産分割の対象に含めることはできないとしたことは,民法903条,同906条,同912条等に違反する。そこで,少なくとも,本件のように遺産の大半が預貯金で,かつ特定の相続人に特別受益が認められる結果,預貯金を遺産分割の対象に含めなければ特別受益による実質的公平が実現できなくなるような事案では,特別受益を受けた当該相続人の合意がなくても預貯金は遺産分割対象に含められなければならない。
第3 従前の最高裁判決の射程は本件に及ばず,最高裁判決の判旨を本件に当てはめることは相当でないこと
 1 従前の最高裁判決の射程は本件に及ばないこと
  (1)最高裁昭和29年4月8日判決
    預貯金が可分債権であることの根拠として,最高裁昭和29年4月8日判決が,「金銭債権その他の可分債権あるときは,その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する者と解すべき」と判断していることが挙げられる。
    しかしながら,同判決は,不法行為債権について対債務者との関係で,その金銭債権の法的性質が問題になった事案にすぎない。従って,相続人間において,遺産分割の対象に含まれるかどうかが争いになっている本件には同判決の射程は及ばない。なお,二宮周平教授も,同判決の射程に関し,「相続人対債務者の問題で,共同相続人の1人は自己の法定相続分に応じた債権額の支払いを債務者に請求できるということを認めただけであり,遺産分割前の共同相続人間における債権の帰属にまで,当然分割として処理するかについてまで明示していないと見ることもできる」と指摘している(甲8)。同様の指摘は,二宮教授以外にも,多くの学者や裁判官らによって指摘されている(甲41・73頁,甲48・910頁,甲49・158頁)。
    さらに,同判決は,債務者の資力が不安定で債権回収のリスクも考慮されなければならない事案であったが,預貯金の場合には,債権回収のリスクをについて考慮する必要はなく,かかる点からも同判決とは事案を異にする(甲44・309頁)。
  (2)最高裁平成16年4月20日判決
    最高裁平成16年4月20日判決は,被相続人が作成した自筆証書遺言に基づいて預貯金が払戻された後に,その遺言書の効力とともに法定相続分を超えた払戻しの違法性等が争われた事案において,前記昭和29年判決を引用したうえで,共同相続人の1人が,「相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,・・・当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償または不当利得の返還を求めることができる」と判示した。
    同判決は,相続人間において預金債権が分割帰属することを判断しただけで,預貯金が遺産分割の対象に含まれるかどうかについて判断したものではない。しかも,同判決の事案は,特別受益の存在については争いになっておらず,本件のように相続人間において具体的相続分が争われていた事案ではない。従って,相続人間において預貯金が遺産分割の対象に含まれるか,また,特別受益が存在して相続人間の相続分について争いがある本件には,同判決の射程は及ばない。
 2 近年の最高裁判決は,金銭債権についてもできるだけ遺産分割の対象に含めて遺産分割を行うことができるように判断していることなど
  (1)相続開始後に生じた金銭債権が,遺産分割の対象に含まれる旨の判断がされていること
   ア 最高裁昭和52年9月19日判決及び同昭和54年2月22日判決は,被相続人の遺産である不動産が,被相続人死亡後に,第三者に売却された売買代金債権の帰属等が問題になった事案において,いずれの判決も,原則として共同相続人が各持分に応じて取得し個々に請求することができると判示した。
     しかしながら,その後,最高裁平成25年11月29日判決は,遺産共有持分の価格を賠償させる方法による共有物分割の判決がされた場合に支払われる賠償金の性質が問題になった事案において,「遺産共有持分権者に支払われる賠償金は,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,賠償金の支払いを受けた遺産共有持分権者は,これをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。」と判示した。
     また,最高裁平成26年2月25日判決は,委託者指図型投資信託の受益権の共同相続開始後に元本償還金や収益分配金が発生して預かり金として被相続人の口座に入金された場合に,共同相続人の1人が自己の相続分に応じて払戻しができるかどうかが争われた事案において,委託者指図型投資信託の受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,その受益権について相続開始後に元本償還金及び収益分配金が発生して預かり金となっても当然には自己の相続分に相当する金員の支払いを請求できない,と判示した。
   イ このように,従来の最高裁判決によれば,被相続人が死亡した時点で可分債権でなくても,その後に可分債権になれば(例えば売買代金債権になれば),遺産分割の対象にされなかった。しかしながら,近年は,平成26年判決のように,被相続人死亡時に可分債権でなければ,その後,可分債権である金銭債権になったとしても,遺産分割の対象にならないとの結論に至っている。
     また,前記平成25年判決についても,同判決の解説によれば,「遺産共有持分を有していた者が持分取得者に対して取得する賠償金支払請求権は,その性質上不可分であって,遺産共有持分を有していた者らは,各自,持分取得者に対し財賞金全額の支払を求めることができるということになりそうである。しかし,それでは,実際上,機先を制してその支払を受けた者が遺産分割未了の間にこれを費消してしまうことにより,他の者の相続分を侵害する事態を招くおそれがあることは否定し難い。裁判所が共有物の分割の判決において各共有者に取得させる権利の内容を定めるに当たっては,この点についても配慮して適切に裁量権を行使すべきである」と考えられるところ,同最高裁判決は,賠償金支払請求権を当然分割した場合の不都合性に配慮して判断したものであるといった評価がされている(甲50・152頁)。このような最高裁判所の判断は,まさに,具体的事案の必要性等も踏まえて,金銭債権もできるだけ遺産分割の対象に含めることによって,柔軟でかつ実質的公平な遺産分割が実現されるように判断していると評価できる。
   ウ このような考え方については,定額郵便貯金債権が遺産に属することの確認を求める訴えの確認の利益が争われた最高裁平成22年10月8日判決において,千葉勝美裁判官が,その補足意見で「なお,定額郵便貯金債権が遺産の重要な部分となっている事案は少なくないものと思われるが,遺産分割をするにあたって,これを対象とすることにより遺産分割の円滑な進行が図られることになろう」と述べていることにも合致する。
  (2)小括
    以上のとおり,近年の最高裁判決では,金銭債権を遺産分割の対象に含めることによって,遺産分割協議を円滑に進められるかといった実質的な点についても配慮されているといえる。この点,本件のように,共同相続人の1人に特別受益が認められる一方,遺産のほとんどが預貯金の場合には,預貯金が遺産分割の対象に含められなければ共同相続人間の実質的公平をも害することになるため,より一層,預貯金を遺産分割の対象に含められなければならない要請が高く,その点に配慮した判断がされなければならない。
第4 審判例や学説でも,預貯金を遺産分割の対象に含めるべきであるとされていること
 1 事案の必要性に応じて預貯金を遺産分割の対象に含めた決定及び審判例
   これまでに,相続人全員の同意がなくても,事案に応じた必要性等から預貯金が遺産分割の対象になると判断している決定や審判例も存在する大阪高等裁判所昭和31年10月9日決定(甲51)は,預金債権は,「相続開始とともに当然相続人に分割承継されるが,遺産分割の際更めて右債権を相続人に分配し直し,これとにらみ合わせて遺産分割による各相続人の取得部分を定めることは差支えな」いとして,預金債権を遺産分割の対象とした原審を是認している。高知家庭裁判所須崎支部昭和40年3月31日審判(甲52)は,一部の相続人に遺産のうち不動産全部を与え,他の相続人に預金債権等を与えることとした事案で,上記決定と同旨の判示を行った上で,「特に本件のような場合にはむしろ当事者双方の利益となり,適切な方法である」としている。
   神戸家庭裁判所尼崎支部昭和47年12月28日審判(甲53)は,相続人に特別受益が認められる事案において,預金債権等の可分債権は,原則として遺産分割の対象にはならないとしながら,「もっとも民法906条,912条等の趣旨に照らし,必要と認められるときは,遺産分割の際に相続人に当然に分割承継された可分債権を改めて分割の対象とし,取得分を変更することもできるものと解することはできる。」と,相続人全員の同意を問題とすることなく,事案の必要性等に応じて預貯金を遺産分割の対象にできることを認めている(同旨の一般論を適用している審判として,同支部昭和48年7月31日(甲54),同支部昭和50年5月30日(甲55))。
   名古屋家庭裁判所平成2年7月20日審判(甲56)は,共同相続人の一人が遺産である預金債権の払戻手続に協力しないことから,他の共同相続人がその分割を申立てた事案において,本件のような場合には,共同相続人は預金債権が遺産として家庭裁判所に対してその遺産分割を求めることができるとしている。
   また,福岡高等裁判所平成8年8月20日決定(甲57)は,金銭その他の可分債権は法律上当然に分割されて各相続人に帰属するとしながら,「しかしながら,遺産分割においては,遺産に含まれる金銭債権も,他の相続財産とともに分割の対象とされることが一般的であって,金銭債権は常に遺産分割の対象にはならないとはいえないこと,遺産が金銭債権だけであっても,特に本件審判手続のように,被相続人の遺産の一部が既に相続人の協議により分割され,金銭債権の一部だけが未分割のまま残存している場合には,相続人間で,その具体的な帰属を定める必要性が強く認められること,その場合には,家庭裁判所における遺産分割手続が最も適切な法的手続であると考えられるところ,本件では,いずれの当事者も,前記の預金の帰属を遺産分割の審判で定めることに同意していると認められることなどからすれば,本件の金銭債権を遺産分割の対象とすることは,遺産分割の基準を定めた民法906条の規定の趣旨及び家事審判制度を設けた趣旨に合致するものということができ」るとしている。本決定は,相続人全員の同意があった事案であるが,金銭債権を遺産分割の対象にすべき必要性を具体的に指摘しており,それらの事情を考慮要素としているものと理解できる。
   加えて,鳥取家庭裁判所米子支部昭和55年8月15日審判(甲58)は,預金が社会生活上の機能としては現金と同一視できること,相続人間で異議のないことを理由として,遺産分割の対象とすることを認めている。
 2 学説等でも預貯金が当然分割されるとの考えに対して批判され,遺産分割の対象に含められるべきであることが指摘されていること
   裁判官の論文や,学説でも,預貯金が可分債権で法律上当然に法定相続分に従って分割され,遺産分割の対象にならないとの判断に対し,次のとおり指摘や批判がなされている。
  (1)最高裁調査官等の裁判官による不合理性の指摘
    最高裁判所の塩月秀平調査官は,現金が遺産分割の対象になるかが争われた最高裁平成4年4月10日判決の判例評釈において,「可分債権だけが先に法定相続分どおり分割されてしまい,残りの相続財産についてだけ分割協議を行うというのは,実情に合わないことが指摘されている。本件でも,金銭が当然分割されているとすると,多額の生前贈与があった場合に,生前贈与を受けていない相続人は,民法903条により特別受益者から持戻しを得た場合でも,持戻し分に相当する部分の遺産たる金銭の分割を受けることができなくなってしまい,実際面で大きな不利益を被ることが考えられる」と指摘しているところ(甲9・15~16頁),この理は,現金だけではなく当然預貯金にも当てはまる。
    前記森野判事は,「問題は,他にめぼしい財産がなく,かつ,特定の相続人に寄与分や特別受益があるなど,具体的相続分が法定相続分と異なる場合である。」として,「現金のまま保管されていれば分割対象になり,預金になった途端に,当然には分割対象にはならないというのは常識に反するのではないか」と指摘し(甲41・74頁),預貯金が遺産分割の対象にならないことを問題視している。
  (2)金銭債権を遺産分割の対象にすべきであるという学説からの批判
    窪田充見教授は,「金銭債権について問題となるのは,むしろ,判例が『金銭その他の可分債権……は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する』(当然分割の命題)とし,そこから,金銭債権は遺産分割の対象となる遺産を構成しない(遺産分割からの排除),としている点である。」,「当然分割の命題によって金銭債権を遺産分割の対象から除外することがもたらす問題は深刻である。特に重要なのは,遺産分割のプロセスから排除することで,具体的相続分を通じた共同相続人間の公平が実現されなくなるという問題である。当然分割の命題を貫徹するのであれば,金銭債権だけが被相続人の遺産であるが,共同相続人の1人に大きな特別受益があり,その具体的相続分がゼロとなる場合であっても,そうした特別受益(や他の相続人の寄与分)は考慮されることなく,その金銭債権は当然に分割承継されることになる。それ自体,かなり不公平な結論だと思われるが,これについて当然分割の命題を前提としつつ,修正を図ることは困難である。」などとして,「上記のような検討からは,金銭債権についても,遺産分割の対象とすることが実質的にも適切だと考えられる。」と指摘している(甲46・123~124頁)。
    米倉明教授は,共同相続された銀行預金債権は各相続人に当然分割帰属するという立場について,「第一に,共同相続人間に不公平を招くおそれが大きい。」,法定相続分を前提として当然分割がなされると,「具体的相続分がゼロの者が法定相続分相当額の払戻を受けることができ,払戻を受けるだけ受けたあげく無資力となるならば,他の共同相続人は右の者に対して不当利得返還請求権を取得するとはいえ,それはほとんど無価値に等しく,損失をこうむることに帰着する。これでは甚だしく不公平ではあるまいか。」,「第二に,当然分割帰属説が適用されると,銀行が相続人間の争いに巻き込まれ,場合によっては応訴せざるを得なくなるほか,調査・確認事項に万全を期する必要から,銀行のエネルギーを消費すること多大であって,銀行の業務に好ましからざる影響をおよぼすことになろう。」,「第三に……右債権(銀行預金債権。筆者注)を,遺産分割の指針(906条)に則った総合的分割の対象とすることがそもそもできなくなってしまう。」などと批判し,「当然分割帰属説にはたやすく賛成し得ない。」と指摘している(甲59・18~19頁)。
    なお,条文の理解について,預貯金が可分債権として当然分割されるという見解の形式的な論理としては,金銭債権は相続によって共同相続人の準共有になり(民法264条),同条ただし書の「特別の定め」としての民法427条によって当然分割承継になると説明される。しかしながら,預貯金が遺産分割の対象になるかどうかといった相続法分野においては,民264条ただし書きの「特別の定め」とは,「民法427条ではなく,相続法の規定であり,相続財産を共有とする民法898条や遺産分割に関する民法906条等」であるといった批判がされている(甲46・123頁,甲59・41~47頁)。
  (3)債権は遺産分割の対象にならないとしつつ,預金債権については遺産分割の対象にすべきとする学説からの批判
    高木多喜男教授は,基本的には債権は遺産分割の対象にならないとしつつも,預金債権については別途の考慮を要すべきであるとして,次のとおり指摘する。
    「基本的に私は債権は遺産分割の対象とならないとするのが正しいと思っています。遺産分割の対象としましてある特定の共同相続人に分配をしますと,その者は,もし債務者が弁済する十分な資力を有するのであればまさしく相続分に応じた分割を受けたということになりますが,もし資力がないと非常な不利益を受けます。このような場合には債務者の資力の担保を他の共同相続人がすることになっています(民法912条)。しかしこのような債権の分割を受けた者が不利益を被ることについてはかわりはありません。したがって債務者の資力によって経済的価値が変動するような債権はその危険を各共同相続人が平等に負担すべきでありまして,遺産分割の対象財産とはならず,相続分に応じて分割債権ないし不可分債権をそれぞれが取得するとする考え方が正当であると思っています。しかし預金につきましてはこのような心配はないのでありますからむしろ906条の総合的分配という面からみますと遺産分割対象財産とするのがむしろ望ましいのであります。例えば,お医者さんが亡くなった場合に,医業を承継する相続人に病院を構成する財産を相続させ,他の相続人には預貯金を与えるというような分割はむしろ望ましいのであります。ですから家庭裁判所の審判(預貯金について遺産分割の対象としている審判例。筆者注)は非常に現実的に問題を処理しているという印象を持つのであります。ですから,理論的には,原則として債権は遺産分割対象財産とはならないが,共同相続人間の平等を損なうことがなく,むしろ,906条よりみて妥当な場合には遺産分割の対象とすることができると解すべきと思います。」(甲60・374~375頁)。
  (4)その他の学説
    その他の学説でも,「預金債権については,債権回収のリスクがあまりないし,分割の効果について対抗要件を具備する必要もないので,いったん分割承継された債権を改めて遺産分割の対象としてもよいだろう。」(甲44・309頁〔前田陽一教授〕),「相続財産として預金しかない場合などを考えると民法の定める公平妥当な結論を得るための実体上・手続き上の究明が必要である。私見としては上記②一部分割説(当然分割であっても一部分割として扱い最終的につじつまが合うようにすればよいとの説。筆者注)を支持したい。」(甲61・155頁〔岡部喜代子判事〕),「可分の財産だからといって,当然に分割されて各相続人に移転すると解すべき理由はどこにもない。可分性を維持したまま,共有財産として遺産中にとどまると解する。」(甲62・254頁〔伊藤昌司教授〕)などと指摘がなされている(その他,預金債権の共同相続の問題を預金契約上の地位の相続と捉え直し,預金契約上の地位ならびに預金契約上の預金債権と解約権は共同相続人に準共有され,預金債権は遺産分割の対象とする近時の見解として,甲48〔川地宏行教授〕)。
    以上のように,預貯金が可分債権で法律上当然に法定相続分に従って分割され,一律に遺産分割の対象にならないとの判断に対しては,多数の学説から批判がなされている。
 3 小括
   このように,これまでの決定・審判例や学説等でも,預貯金が当然に分割されるとの立場に対しては,具体的相続分を通じた共同相続人間の公平を図ろうとした相続法の理念を害することになるなどとして批判されており,具体的な事案の必要性に応じて,預貯金を遺産分割の対象にすることが求められている。
第5 本件において,預貯金が遺産分割の対象に含められなければ,共同相続人間の実質的公平が事後的にも実現されない可能性が高く,より一層遺産分割の対象に含められなければならない必要性が高いこと
 1 本件のように,既に特別受益を得ているために具体的相続分がゼロになる相続人に対し,預貯金が法定相続分に従って払い戻された場合に,特別受益の持戻しを実現するためには,その後に相続人間で新たに不当利得返還請求訴訟等を提起しなければならないといった見解も存在する(甲59・18頁,甲63・10頁)。しかしながら,仮に,そうなった場合には,財産が散逸,隠匿される危険があるし,訴訟経済にも著しく反することになる。
   しかも,そもそも,可分債権であることを理由に預貯金が相続分に従って払い戻された場合には,「法律上の原因」がないとはいえず,不当利得返還請求権の行使が認められない可能性もある。そうなった場合には,具体的相続分がゼロになる相続人が,預貯金について相続分に従った払戻しを受ける一方,その返還義務すら負わなくなり,具体的相続分に従った実質的公平が実現できない。従って,より一層,預貯金を遺産分割の対象に含めて遺産分割が行われなければならない必要性がある。
 2 また,現在,相手方から株式会社三菱東京UFJ銀行に対して預金の払戻請求がなされているが,預貯金が遺産分割の対象に含まれなければ,このように訴訟と審判が並行して進行し,その判断内容によっては相矛盾した判断になることも考えられ,適正な遺産分割の実現が図れなくなる。そこで,このような問題を生じさせないためにも,本件のように特定の相続人に特別受益が認められ,預貯金を遺産分割の対象に含めなければ共同相続人間の実質的公平が害されるような事案においては,預貯金も遺産分割の対象に含められなければならない。
第6 まとめ
   以上のとおり,本件事案では,預貯金が遺産分割の対象に含められなければ,特別受益を受けている相手方が,法定相続分に従って預貯金を取得することになり,具体的相続分を通じた共同相続人間の実質的公平が実現できない結論となり,民法903条,同906条,民912条等に反する。そのため,少なくとも,本件のように遺産の大半が預貯金で,かつ特定の相続人に特別受益が認められる結果,預貯金を遺産分割の対象に含めなければ共同相続人間の実質的公平が害される場合には,特別受益を受けた当該相続人の合意がなくても,預貯金は遺産分割の対象に含められなければならない。
                                 以上

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